教授今本 啓介IMAMOTO Keisuke
皆さんは「六法」という言葉を聞いたことがあると思いますし,法学部に来れば,まず法律の条文が掲載されている『六法』と呼ばれる法律集を購入するというイメージがあるかもしれません。ただ,『六法』を開けてみると,6つの法律(憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法。憲法は性質が違いますが,ここでは,便宜的に憲法も法律に含むこととします)以外に多くの法律が掲載されていることに気が付くかと思います。また,実際には,皆さんが法学部に入って通常買うコンパクトサイズの『六法』に掲載されている法律以外にも様々な法律があり,その数は実に2,000近くに上ります。そのほとんどが,行政に関する法律であり,行政法に分類されるといっても過言ではないでしょう(なお,「行政法」という名前の法律はなく,「行政法」とは法律の分類ないし学問分野の名前です)。
このようにいわれても,私たちの生活が果たしてそんなに多くの法律に影響されているのだろうかと思った人もいるかもしれません。ただ,身近なところでいうと,日本の道路が左側通行であることや,自転車が原則車道を走らなければならないことは,道路交通法で決められているからですし,通学に使うバスの運賃が毎日変わらないのも,道路運送法により運賃の認可制が敷かれているからです。また,大学をはじめ学校教育については学校教育法が定めていますし,皆さんが住んでいる市町村は,地方自治法により定められた地方公共団体であり,地方自治法で権限が定められています。さらに,店で売られているパンに添加できる添加物については食品衛生法で定められています。実は,ここで出てくる法律は全て行政法に分類される法律です。
しかしながら,行政法は対象とする法律が多いので,行政法の授業でその内容を逐一教えられるわけではありません。また,行政の役割が広がったことにより,行政法から独立して新たに学問分野を確立している法分野も出てきており(租税法,社会保障法,環境法,経済法等),行政法の授業で細かく扱わない分野も増えています(本学でも,これらの分野を扱う科目が行政法とは別に設置されています)。ただ,実は,これらの分野の法律(法律のみならず,政令・省令等も含みます)の条文を解釈したり,これらの分野の政策(法律でどのように定めるべきか,そもそも法律で定めるべきものは何か,法律以外の方法で目的を果たせるか)を考察する際にも,行政法の知識が必要とされることが少なくありません。
行政法を学ぶと,既に新たな学問分野を確立している分野を含む様々な分野の法律について知ることができるようになります。そのため,世の中にある様々な分野の法律に立ち向かってゆけることこそが,行政法の大きな魅力ということができるでしょう。これからの時代,こうした力は,法曹や法律による行政が求められる公務員に必要であるのみならず,あらゆる人が備えるべき力であろうと思います。皆さんも,ぜひ新潟大学でこの魅力的な行政法を一緒に学びませんか。