【鈴木ゼミ】デジタル社会に向けて 個人の権利利益の保護と個人データ利用の両立を考える

教授鈴木 正朝SUZUKI Masatomo

「情報法」は、情報に関する法を探究する研究分野です。情報という切り口で、プライバシーの権利や表現の自由のような「憲法」に関する問題や、電子商取引のような「民法」に関する問題、不正アクセス禁止法のような「刑法」に関する問題など、基本科目を横断するテーマを扱います。従って、基本科目を履修した3、4年次の選択科目の1つになります。私の講義では、主に個人情報保護法とプライバシーの権利を中心に、公文書管理法や情報公開法等に触れながら、あるべきデータ保護法制についてお話しします。

皆さんは、日常的にスマホでネットに接続し、多くのコンテンツを閲覧しネット上のサービスを享受していると思います。スマホはAndroidやiPhone、パソコンはWindowsかmac OSを使っているのではないでしょうか。SNSもメッセンジャーも多くが北米を中心とした外国企業です。利用者の個人データは国境を意識することなく日々グローバルに流通しており、一国の法律だけでは個人データ保護にも限界があります。日米欧等で協調し、ルールの調和を図り、法執行の協力体制を構築していく必要があります。EU・米国やOECDのデータ保護法も勉強します。

個人情報保護法制は、かつて3つの法律があり、さらに2000を超える条例があって、個人情報などの定義も義務規定の内容も微妙に異なっていました。2023年4月からは、それらが1つの法律にまとまり、権限も個人情報保護委員会に集中することになりました。皆さんはこの新個人情報保護法から学ぶことになります。

国際的には、欧米との交渉窓口も一本化され、協調体制の強化に向かうでしょう。国内では、医療AI等の研究開発や創薬のために、個人の権利利益を侵害することなく、品質のよい個人データ(仮名加工データ)を大量に二次利用できるための法制度の制定が進み、自動走行車の車載センサーによる歩行者映り込み問題等も解決に向かうでしょう。本格的なデータ駆動社会のはじまりです。

一方、GIGAスクール(個別最適化教育)における教育用個人データの利用や、子の見守り政策における個人データ利用において、行政は、データ処理によって児童生徒を選別し、評価・決定することになります。個人情報保護法はその際の適切性が確保されるように行政庁を規律し、データ処理の濫用から個人の権利利益を保護しなければなりません。よりよく機能するよう法改正も必要です。

さて、個人データ保護法制はそもそも何のために制定されてきたのでしょうか。その役割を歴史的に振り返ってみるならば、1つには、ナチスのパンチカードシステムによる人間(ユダヤ人)の選別と評価・決定の問題に行き着くと言えるかもしれません。ホロコーストをデータ処理が支援してきた側面に着目するわけです。そうした大きな人権侵害の問題に限らず、今日では、医学部入試の女子差別事件も個人データ保護法制の観点から問題にすることができます。入試という利用目的に関連性のない性別というデータを処理し、女子受験生を選別し、不適切な評価・決定が行われていたからです。

こうした問題を従来は、自己情報コントロール権という考え方から説明してきましたが、はたしてそうであろうかと私は疑問をもっています。教室では学会での論争の最前線も紹介していければいいなと思っています。