2023年3月卒山本 純子YAMAMOTO Junko
法学部の講義ではたくさんの判例を扱います。私は刑事訴訟法のゼミに所属していたので、ときには残酷な事例も扱いました。加害者が凶悪な人だったり、強い殺意をもっていたり…。しかし、事件はそういったものばかりではありません。例えば、誹謗中傷について考えてみましょう。ふつうのSNSユーザーが、軽い気持ちで他人を傷つけ、問題が大きくなってから「こんなことになるとは思わなかった」と話す。こうした場面を報道等で見たことがある人もいるでしょう。ごくふつうの人が、無自覚のうちに「悪」へと向かってしまう。これはなぜか。そしてこの場合の「悪」とはいったい何か。私は法学部在学中、このような根源的な「問い」を抱きました。そこで時々(いや、しばしば)法学部を飛び出し、他学部の哲学の講義に出るなどして(もちろん法学部の単位もきちんと取りつつ)過ごしていたのですが、卒業を機に専門を法学から哲学へ移し、大学院で本格的に研究することにしました。
私は現在、新潟大学大学院現代社会文化研究科の博士前期課程に在籍しています。具体的な専門は近代以降の西洋哲学であり、とりわけハンナ・アーレントという人物の思想を中心に研究しています。彼女は20世紀初頭のドイツにユダヤ人として生まれ、ナチスによる迫害を受けながら、「ごくふつうの人々が、なぜ命や人間性をも破壊するような悪へと加担してしまうのか」を問い続けた人物です。私自身は、彼女の思想を手掛かりにしつつ、他の哲学者の思想や、社会心理学等の隣接分野とも横断しながら考察しています。
私が哲学に触れ、現在の研究に繋がる素養を得ることができたのは、所属にとらわれず様々なものを手に取ることができる環境があったからです。もちろん、資格試験や自分の目標に向かって最短ルートを進む、という過ごし方もあるでしょう。それはそれでよいことなのですが、大学は私がそうしたように、「寄り道」や「一度立ち止まって考える」こともできる場所だと思います。新潟大学は多数の分野が併置されている総合大学です。みなさんは新潟大学で何を手に取るでしょうか。ひとりの先輩として、楽しみにしています。